札幌地方裁判所 昭和52年(ワ)696号 判決 1978年8月17日
原告 堀内敏吉
被告 国
訴訟代理人 小林正明 笠井秀弥 ほか二名
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事 実 <省略>
理由
一 先ず、原告の請求の追加的変更の当否について検討する。請求の変更は、請求の基礎に変更がないかぎり許される(民訴法二三二条)のであるが、請求の基礎に変更がないとは、旧請求の当否の判断に必要な主要事実と新請求の当否の判断に必要な主要事実とがその根幹において共通する現象である。そこで、これを本件についてみると、従前の請求と新たな請求とは、本件自動車の代位による所有権移転登録申請を却下されたことによる損害賠償という点では、いずれも、関連があるといいうるが、申請とこれにともなう却下とは、それぞれ、別の日時においてなされているから、別異の不法行為に基づいて、別個の損害を求めていることになるので、請求の基礎に同一性があるとは、いえないことになる。そこで、原告の請求の追加的変更は、不当としてこれを許さないこととする。
二 そこで、従前の請求について判断することとする。
(一) <証拠省略>によると、原告は、訴外伊藤に対する旭川地方法務局所属公証人内藤恭一郎作成昭和四八年第五九三号動産売買契約公正証書の執行力ある正本に基づいて、本件自動車に対する強制執行の申立てを、旭川地方裁判所になしたところ、同裁判所から、本件自動車は、右訴外伊藤が、訴外旭川日産から買い受けたもので代金全額がすでに支払われていることを認定しながら、自動車の強制競売は、自動車及び建設機械強制執行規則により民事訴訟法中不動産の強制競売に関する規定が準用されるので、自動車の強制執行を開始するためには、自動車の登録名義が債務者である訴外伊藤に変更されていなければならないところ、本件自動車の所有名義は、未だ、訴外旭川日産であるから、当該申立は失当であるとして、これを却下されたことが認められる。そこで(原告が訴外伊藤を代位して訴外旭川日産を被告として、本件自動車の所有権移転登録手続を求める訴えを提起したところ、旭川簡易裁判所が、昭和五〇年一一月一三日訴外旭川日産に対し訴外伊藤に本件自動車の所有権移転登録手続を命ずる旨の判決を言い渡し、右判決が同月一七日確定したこと、かくて、原告が、昭和五一年一月一七日北海道旭川陸運事務所に代位による所有権移転登録の申請を、右判決書(写)及び同判決送達証明書(写)を添付して、行なつたところ、当該申請が受理されなかつたことについては、当事者間に争いがない。
(二) <証拠省略>によると、北海道旭川陸運事務所が原告の当該申請を受理しなかつたのは、道路運送車輌法第一三条三項による自動車検査証の記載事項の変更のための記入申請を、同時になさなかつたことと、自動車登録令第一六条による申請人の印鑑であつて、市町村または特別区の長の証明を得たものの添付を欠いていたことによるものと、認められる。
(三) 原告は、旭川陸運事務所が、右申請を受理しなかつたのは、違法であると主張するので、検討する。
1 道路運送車輌法(以下、法という。)は、運行の用に供する自動車について、自動車登録フアイルに登録しない限り、運行の用に供することを許さず(法第四条)、また登録を受けた自動車の所有権の得喪は、登録を受けなければ第三者に対抗することができない(法第五条一項)ことにして、道路運送車輌の所有権の公証を、自動車登録フアイルへの登録に行なわしめている。そこで、新規登録を受けた自動車について所有者の変更があつたときは、新所有者は、その事由があつた日から、一五日以内に運輸大臣の行なう移転登録をしなければならない(法第一三条一項)ところ、訴外伊藤が、これを怠つたため、原告が、右訴外伊藤に代位して判決を得て、本件自動車の移転登録の申請を行なつたわけであるが、自動車の所有者の変更は、自動車検査証の記載事項の変更にも該るので、法は、移転登録の申請と同時に、自動車検査証の記載変更を申請しなければならない旨定めている(法第一三条三項)。これは法が運送車輌の安全性の確保のために、運輸大臣の定める保安基準に適合する自動車の使用者に、自動車検査証を交付する(法第六〇条、第六二条一項)ことと対応して、自動車検査証を所持する者と、自動車の所有者とを手続の上で、一致させようとしたことにほかならない。原告が当該申請と同時に、自動車検査証の記載事項の変更申請を行なわなかつたことは、既に認定したとおりであるから、被告が、これを理由として、当該申請の受理を拒んだことは、法の執行者として、当然なすべきことをしたというべきであつて、何等違法ではない。
原告は、当該申請は、強制執行の準備として、移転登録の申請を行なつたのであつて、自から運行の用に供する場合と異なるから、自動車検査証の記載事項の変更申請を同時に求めるのは、法律の解釈を誤つたものである旨主張するが、強制執行の準備といつても、原告がなしうるのは、所有者の変更があつたにもかかわらず、移転登録の申請をしない所有者に代位して移転登録の申請を行なうにすぎないのであるから、これを特に明文の規定に反してまで例外と解する必要はない。
(なお、付言するに、右のように解すると、債務者である自動車の使用者(で、かつ、実質的な所有者)は、自動車検査証の移転登録の申請に協力するはずがなく、債権者に不可能を強いることになりはしないかとの疑問が生ずるが、しかし、これは、法第一三条三項を、原告の主張するとおり解しないことの結果というより、債権者代位に基づく自動車検査証の記載の変更申請を認めない現在の陸運行政の取扱いにあるというべきである。すなわち、<証拠省略>によると、現在の運輸省自動車局は、債権者代位権に基づく自動車検査証の記載事項の変更の記入申請を認めていないことが認められるが、かような取扱いを指示する右<証拠省略>中の運輸省自動車局整備部長の見解(昭和三五、一二、一五、自管第一三八号)は直ちに、首肯できるものではなく、なお、検討の余地があるものと考えられるのである。)
2 自動車登録令(昭和二六年六月三〇日政令第二五六条)第一六条によると、申請書には、申請人の印鑑であつて、市町村又は特別区の長の証明を得たものを添付しなければならない旨定めているが、弁論の全趣旨によると、原告の当該申請には印鑑の添付を欠いていたことが、認められる。
すると、原告の当該申請は、申請が当該方式に適合しなかつたことになるから、右登録令第二一条によつて、これを受理してはならない場合に該当していたことになる。
三 以上によると、原告の訴えはその余について判断するまでもなく失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 畔柳正義)